技能実習生の受け入れを検討している企業の中には、技能実習生の失踪を不安視するケースが見られます。実際、令和4年度の技能実習生の失踪者数は9,006人とコロナ禍以降最多の人数を記録している状況です。
本記事では、技能実習生が失踪した際のペナルティや原因、初期対応、失踪を防ぐ一手等をまとめました。
技能実習生の失踪による企業・受入機関へのペナルティ
技能実習生の失踪で、企業や受入機関には以下のペナルティが生じます。
一定期間の技能実習生受け入れ停止
優良認定要件の減点
本項目では、技能実習生が失踪した際に生じる企業・受入機関へのペナルティを解説します。
一定期間の技能実習生受け入れ停止
企業側に失踪の責任がある場合、一定期間技能実習生の受け入れが停止させられます。
技能実習制度の適正利用を目指し、技能実習生の支援・保護につながる罰則などが用意されているためです。
企業側の責めに帰すべき事由が発覚した場合、違反内容に応じて1年・3年・5年いずれかの期間にわたって受け入れができなくなります。
受け入れ停止になるような不正行為は絶対にしないことが重要です。
優良認定要件の減点
企業側に問題があった場合には、優良認定要件に必要な点数が減点となります。
優良認定を受けるには150点中90点が必要ですが、直近3年で企業側に責任があった失踪があると、50点減らされます。
参考:外国人技能実習機構
本来、優良認定を受けることで、実習期間が延長できるほか、受け入れ枠が拡大するなど、企業側にとってメリットだらけです。
事業者側が失踪の理由を作ったと判断されると、優良認定を得ることはかなり厳しくなるでしょう。
技能実習生が受ける可能性のあるペナルティ
企業側だけでなく、技能実習生もペナルティを受ける可能性があります。
以下がペナルティの内容です。
懲役刑・罰金
強制送還
在留資格の取り消し
失踪した技能実習生が受けるペナルティについてまとめました。
懲役刑・罰金
技能実習生が失踪した場合、懲役刑や罰金のペナルティが科せられる場合があります。
入国管理法第70条で、「3年以下の懲役もしくは禁錮もしくは300万円以下の罰金または併科」と定められているためです。
技能実習生が失踪すると不法滞在の扱いとなる可能性があるほか、在留資格外で就労を行うことも考えられます。
実習生が失踪し、その後何らかの問題を起こして逮捕された場合などは、懲役刑・罰金が科せられる恐れがあります。
強制送還
懲役刑や罰金の処分を受けた場合や退去強制事由に該当した場合は、強制送還の可能性が考えられます。失踪した時点で不法滞在の扱いとなり、その時点で入管法違反と判断されることが要因です。
強制送還は入国管理法で規定されており、出入国在留管理庁の入国警備官が手続きを行います。
強制送還になると再度日本に来られるまでにかなりの時間を要することになるため、外国人にとっても避けたい罰則と言えます。
在留資格の取り消し
失踪した事で入管法違反と判断された技能実習生は在留資格の取り消しとなる可能性が高いです。
入管法では在留資格の取り消しに関する規定があり、不法滞在も取消事由に該当するからです。
令和5年における在留資格取消件数は1,240件あり、そのうちの983件が「技能実習」と明らかに割合が多いというデータもあります。
中には在留資格の取消処分が出る前に帰国するケースもあり、このケースもここ数年で増えている状況です。
技能実習生が失踪する主な原因とは?
技能実習生が失踪する原因として、受入れ企業側・技能実習生側双方に原因があります。
本項目では、受入れ企業側・技能実習生側双方から、失踪に至った主な原因とは何かをまとめました。
受入れ企業に関連する失踪の要因
受入れ企業側にある失踪の要因として、労働基準法関連や賃金関連が目立ちます。
技能実習制度では最低賃金で雇用できるため、エリアによっては各種費用を控除された給与が雀の涙しか残っていないケースもあります。
他にも長時間の勤務など、劣悪な労働環境が原因になることもあるのです。
また日本人従業員が技能実習生に暴力を振るうほか、人種差別など複数の要因が重なり合うことも失踪の要因となり得ます。
技能実習生自身に関わる失踪の動機
技能実習生が失踪を決断する動機で目立つのは金銭的な理由です。日本に来るまでに日本語教育を受けるほか、借金をしてまで送り出し機関を利用して来日する事例もあります。
借金返済のために失踪して不法就労をせざるを得なくなったというニュースも報告されるなど、金銭的な理由が失踪の動機になりやすいです。
借金をしてまで来日した悩みを職場の人に気軽に相談するのは難しく、退職ではなく失踪という形で姿をくらますのです。
失踪した際に企業が取るべき初期対応
万が一、実習生が失踪してしまった場合、企業側は以下の初期対応を取る必要があります。
監理団体への連絡
宿泊施設の状況確認
警察への捜索願
本項目では失踪時に取るべき企業側の初期対応をまとめました。
監理団体への連絡
失踪時に企業側が真っ先に取るべき行動は、監理団体への連絡です。
監理団体には、実習生が帰国するまでスムーズに対処する義務があります。特定技能外国人は登録支援機関が支援を行いますが、技能実習生は監理団体が担います。
監理団体と協力しながら、家族や同僚に連絡の有無を確かめ、見つけ出していく流れです。
何らかのトラブルに発展する前に見つけ出すのが理想的であり、本人と連絡が取れたらすぐに戻るよう説得を行うなどの対処が必要です。
また、失踪によって実習の継続が困難になった場合は、監理団体が「技能実習実施困難時届出書」を作成、外国人技能実習機構に提出します。
宿泊施設の状況確認
失踪した場合には、実習生が滞在していた寮などの宿泊施設の状況確認を行う必要があります。
残された荷物などから手がかりとなる情報が見つかり、早期発見につながる可能性があるためです。
複数の実習生と一緒に寝泊まりをしていた場合は、実習生と面談を行って情報の聞き取りを図るなど、少しでも情報を収集することが大切です。
これらの情報を踏まえた上で失踪した実習生を見つけ出せるのが望ましいと言えます。
警察への捜索願
手を尽くした結果、手がかりが見つからない場合には警察へ捜索願を提出します。失踪した実習生が何らかの事件や事故に遭遇した可能性もあるためです。
特に宿泊施設で多くの貴重品が残されたままだった場合、事件性が出てきます。
すぐに見つからない場合などは、早急に警察に対して捜索願を出して、速やかに見つけ出してもらうことを優先しましょう。
失踪を防ぐための企業の対応策
今後技能実習生を受け入れるためにも、事前に失踪を防ぐための対応策を取る必要があります。
送り出し機関・監理団体の厳選
雇用条件・待遇の詳細な説明
実習生の負債額や返済計画の確認
生活環境・相談体制の整備
失踪は犯罪であることの周知
失踪を防ぐために必要な企業の対策・方法をまとめました。
送り出し機関・監理団体の厳選
失踪を未然に防ぐには、送り出し機関・監理団体の厳選が欠かせません。送り出し機関・監理団体の中には、ブローカーと手を結んでいる団体もあるからです。
一部の外国人労働者は制度を知らずに、ブローカーへ高い仲介手数料を支払って送り出し機関を紹介してもらうこともあります。
結果的に失踪して犯罪に手を染める実習生も出てくるため、事前に送り出し機関・監理団体の厳選が必要です。
雇用条件・待遇の詳細な説明
技能実習生に対し、雇用条件・待遇に関する詳細な説明も欠かせません。労働環境を適切に説明しないと、実習生の失踪につながりやすいからです。
技能実習生は最低賃金で雇用できますが、令和5年度の最低賃金は東京が1,113円に対し、岩手は893円と220円も最低賃金の時給が地域で異なります。
雇用契約の際に昇給や賞与の存在などを伝えて、本人のやる気を促すような形が求められます。
実習生の負債額や返済計画の確認
実習生の失踪防止策として、実習生が抱える負債額や返済計画の確認が重要です。
日本で働ける期間に限りがあるため、その期間で返済できる計画でないと失踪につながります。
借金を返せないからと闇バイトに手を出し、犯罪者となってしまうことがあります。
作業を続けていれば返済できると理解してもらうことで、失踪を防げるのです。
生活環境・相談体制の整備
異国の地で不安を抱えやすい実習生に対して、生活環境や相談体制の整備を行うことも必要です。
人間関係を始め、さまざまなことに悩みやすく、相談しやすい環境を作ると実習生のやる気を維持しやすくなります。
実習生を指導する日本人の従業員にも一定の不安があるため、お互いにいい影響を与えられます。
注意深く人材育成を実施していく際には、生活環境・相談体制の整備は欠かせません
失踪は犯罪であることの周知
面接の段階で、失踪は犯罪であることを周知する必要があります。実習生は、失踪が犯罪であることを知らないケースが考えられるからです。
失踪すると入管法違反の対象だと分かれば、最初から失踪という選択肢が挙がらなくなります。
注意事項を書類にまとめて、失踪が犯罪であることを記載して重ねて説明することも検討しましょう。
まとめ
技能実習生が失踪をすることで、企業側・実習生側双方にペナルティが発生することがあります。
ペナルティが科せられれば、今後の活動への制限、実習生の再入国が困難になる可能性も出てくるでしょう。
一方で、企業側が実習生を不当に扱うことが原因になることもあり、実習の際には普段から業務の改善を行い続けて環境を整備することも必要です。
万が一、失踪者が出たらすぐに監理団体や警察に連絡し、速やかに失踪者の確保を目指しましょう。
サークルズ協同組合は、2000年に設立された監理団体です。長年の経験を活かして、受入企業様にも実習生にも安心のサポート体制を提供します。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。